市川ブックフェア2025 トークイベント「ああ素晴らしき語学オタクの道」レポート
市川ブックフェア2025のトークイベント「ああ素晴らしき語学オタクの道」が、2025年12月7日に市川市中央図書館地下集会室で開催されました。
イベントの参加人数は28名で、登壇者2人の語学体験を掛け合わせた、充実した1時間40分になりました。
○登壇者
済東鉄腸(さいとう・てっちょう)さん
市川市育ちで市川市在住。大学時代から映画評論を書き続け、『キネマ旬報』などの映画雑誌に寄稿。大学卒業後はコンプレックスやうつ、そして腸の難病であるクローン病で自宅に引きこもる中、東欧映画に目覚め、ルーマニア語で小説執筆や詩作を積極的に行われてきました。黒川裕子(くろかわ・ゆうこ)さん
大阪府生まれ。高校時代にカナダへ留学し、京都外国語大学では日本語学で学士号、そしてイギリスのエディンバラ大学では犯罪学で修士号を取得されました。音楽、天文、多文化共生をはじめとする社会的テーマ、ファンタジーなど、幅広いテーマの作品を執筆されています。
鉄腸さんはルーマニア語で小説を書き始めて6年になります。そのほかにもルクセンブルク語など現在は数多くの言語を学んでいますが、高校の頃までは「英語は全然ダメだった」「何がどう分からないかすらも分からないって最低のお手上げ状態だったんだ」と本には書かれていました。
つまり、高校生までは「語学オンチ」だったということ。英語の三単現のsも「意味がわからない……」と、英語そのものをどうやら受け付けなかったようです。
そんな鉄腸さんが語学オタクへと変貌していくのは、大学生の頃でした。もともと人見知りの傾向があっただけでなく、受験に失敗して滑り止めの大学に進学したことでのコンプレックス、そして東日本大震災による放射能汚染などの報道も重なってうつ状態に陥った鉄腸さん。大学になじめず、DVDを視聴できる施設に入り浸っていたとのことでした。ここで英語圏の映画を鑑賞する際に英語の字幕をつけたことから、英語を学ばされるのではなく、自ら学ぶ体験をします。
就職活動がうまくいかないまま大学を卒業した鉄腸さんは、市川市内にある自宅の2階の子ども部屋に引きこもっていました。そして動画サイトでルーマニア映画を知り、ルーマニア語を学び始めることとなります。
最初は映画を見るための手段だった語学が、いつしか外国語を学ぶこと自体が楽しいという喜びへと変化していきました。
ルーマニア語を学ぶことで、日本語への意識も変わりました。人見知りだった鉄腸さんの場合、英語だけでなく日本語、さらには日本語でできた価値観に対しても、ある種の苦手意識があったようです。それが、日本語の表現をルーマニア語に訳すなどの作業から、ルーマニア語から日本語を捉え直す機会が図らずも得られたのです。
現在の鉄腸さんの様子を見ていると、子ども部屋に引きこもっていたなんて信じられないのですが、語学がコミュニケーションの重い扉を開ける力になったのかもしれません。
鉄腸さんは多くの外国語を勉強していますが、ルーマニア以外は、外国語を使うためにその国を訪問したいとは思わないとのこと。
学ぶ外国語も、読んでいる小説に出てきたり、スマホから流れてきた音楽で使われていたりと、偶然の出会いがきっかけで、「○時間勉強しよう」などと勉強時間も決めていないそうです。
トークイベントのナビゲーターを務めた黒川さんについては、カナダやスコットランドへの留学経験があります。
一般論として「外国語を学ぶなら現地に行ったほうがよい」とされていますが、黒川さん自身の体験は違ったようです。「異なる文化に入っていくのはシビアで、自分をなくさなければ、なじめないところもある」とのことでした。そのため、留学先では引きこもり状態だったとのこと。
この状況について、鉄腸さんは生活言語と学習言語の違いではないかと話していました。「ルーマニア語の映画を見たいからルーマニア語を学ぼう」「外国の歌の意味を知りたい」というような学習言語だと、学ぶこと自体を楽しめます。
一方、日常で使う生活言語は、社会で生きていくためには必須なので、語学を楽しむような余裕がないわけです。
今回のイベントの参加者から、次のような質問が寄せられていました。
「アメリカ人の知人ですが、五年、六年と日本に在住して、日本人の奥さんとも結婚しているのにカタコトの日本語しか話せない人がいます。私も高校生の頃から、結構英語を勉強したつもりですが、とてもネイティブの方と話せるところまでは行きません。ところがYouTubeでアニメを観ていただけだというのに、流暢な日本語を話せる人たちがいます。この差は何でしょうか?」(原文ママ)
これも生活言語と学習言語の違いだと、鉄腸さんは指摘しています。生活言語では買い物や目的地までの道順などを知ることなどが目的になるので、「学ばざるを得ない」というプレッシャーがあります。
しかし、興味のある外国語のアニメのためであれば、娯楽。そのため、「知れば知るほど面白い」とモチベーションが高まります。ですから、たとえ部屋に引きこもっていても、語学オタクの道を突き進むことができるのです。
鉄腸さんによれば、生活言語は、暮らしに困らないための、肉体の充足。
一方の学習言語は、生きるための、魂の充足。
今回のトークイベント「ああ素晴らしき語学オタクの道」も、まさに学習言語がテーマです。
イベントの参加者から「日本語と親和性が高い(日本人に親しみやすい)と感じる言語があれば、うかがいたいです」という質問がありました。
これについては、日本語と文の構造が似ている韓国語とトルコ語とのこと。トルコ語については英語のアルファベットと近いため、義務教育で英語を勉強している私たちにも理解しやすいのだそうです。大学の第二外国語は韓国語やトルコ語を選択するといいのかもしれません(トルコ語が選択肢に入っているのかはわかりませんが)。
「月並みで恐縮ですが、好きな言葉は何でしょうか?」という質問には、2人から答えがありました。
黒川さんは「すべては途中」で、家族に教えてもらったのだそうです。
そして鉄腸さんはルーマニアの哲学者であるシオランの言葉で、鉄腸さんによる“オレ訳”です。
「孤独が教えてくれるのは、アンタが一人であるってことじゃない。アンタが唯一無二って存在なんだってことだ」
もう一つの言葉は「大盛無料」とのことでした。
鉄腸さんはルーマニア語で小説を書き始めて6年になります。そのほかにもルクセンブルク語など現在は数多くの言語を学んでいますが、高校の頃までは「英語は全然ダメだった」「何がどう分からないかすらも分からないって最低のお手上げ状態だったんだ」と本には書かれていました。
つまり、高校生までは「語学オンチ」だったということ。英語の三単現のsも「意味がわからない……」と、英語そのものをどうやら受け付けなかったようです。
そんな鉄腸さんが語学オタクへと変貌していくのは、大学生の頃でした。もともと人見知りの傾向があっただけでなく、受験に失敗して滑り止めの大学に進学したことでのコンプレックス、そして東日本大震災による放射能汚染などの報道も重なってうつ状態に陥った鉄腸さん。大学になじめず、DVDを視聴できる施設に入り浸っていたとのことでした。ここで英語圏の映画を鑑賞する際に英語の字幕をつけたことから、英語を学ばされるのではなく、自ら学ぶ体験をします。
就職活動がうまくいかないまま大学を卒業した鉄腸さんは、市川市内にある自宅の2階の子ども部屋に引きこもっていました。そして動画サイトでルーマニア映画を知り、ルーマニア語を学び始めることとなります。
最初は映画を見るための手段だった語学が、いつしか外国語を学ぶこと自体が楽しいという喜びへと変化していきました。
ルーマニア語を学ぶことで、日本語への意識も変わりました。人見知りだった鉄腸さんの場合、英語だけでなく日本語、さらには日本語でできた価値観に対しても、ある種の苦手意識があったようです。それが、日本語の表現をルーマニア語に訳すなどの作業から、ルーマニア語から日本語を捉え直す機会が図らずも得られたのです。
現在の鉄腸さんの様子を見ていると、子ども部屋に引きこもっていたなんて信じられないのですが、語学がコミュニケーションの重い扉を開ける力になったのかもしれません。
鉄腸さんは多くの外国語を勉強していますが、ルーマニア以外は、外国語を使うためにその国を訪問したいとは思わないとのこと。
学ぶ外国語も、読んでいる小説に出てきたり、スマホから流れてきた音楽で使われていたりと、偶然の出会いがきっかけで、「○時間勉強しよう」などと勉強時間も決めていないそうです。
トークイベントのナビゲーターを務めた黒川さんについては、カナダやスコットランドへの留学経験があります。
一般論として「外国語を学ぶなら現地に行ったほうがよい」とされていますが、黒川さん自身の体験は違ったようです。「異なる文化に入っていくのはシビアで、自分をなくさなければ、なじめないところもある」とのことでした。そのため、留学先では引きこもり状態だったとのこと。
この状況について、鉄腸さんは生活言語と学習言語の違いではないかと話していました。「ルーマニア語の映画を見たいからルーマニア語を学ぼう」「外国の歌の意味を知りたい」というような学習言語だと、学ぶこと自体を楽しめます。
一方、日常で使う生活言語は、社会で生きていくためには必須なので、語学を楽しむような余裕がないわけです。
今回のイベントの参加者から、次のような質問が寄せられていました。
「アメリカ人の知人ですが、五年、六年と日本に在住して、日本人の奥さんとも結婚しているのにカタコトの日本語しか話せない人がいます。私も高校生の頃から、結構英語を勉強したつもりですが、とてもネイティブの方と話せるところまでは行きません。ところがYouTubeでアニメを観ていただけだというのに、流暢な日本語を話せる人たちがいます。この差は何でしょうか?」(原文ママ)
これも生活言語と学習言語の違いだと、鉄腸さんは指摘しています。生活言語では買い物や目的地までの道順などを知ることなどが目的になるので、「学ばざるを得ない」というプレッシャーがあります。
しかし、興味のある外国語のアニメのためであれば、娯楽。そのため、「知れば知るほど面白い」とモチベーションが高まります。ですから、たとえ部屋に引きこもっていても、語学オタクの道を突き進むことができるのです。
鉄腸さんによれば、生活言語は、暮らしに困らないための、肉体の充足。
一方の学習言語は、生きるための、魂の充足。
今回のトークイベント「ああ素晴らしき語学オタクの道」も、まさに学習言語がテーマです。
イベントの参加者から「日本語と親和性が高い(日本人に親しみやすい)と感じる言語があれば、うかがいたいです」という質問がありました。
これについては、日本語と文の構造が似ている韓国語とトルコ語とのこと。トルコ語については英語のアルファベットと近いため、義務教育で英語を勉強している私たちにも理解しやすいのだそうです。大学の第二外国語は韓国語やトルコ語を選択するといいのかもしれません(トルコ語が選択肢に入っているのかはわかりませんが)。
「月並みで恐縮ですが、好きな言葉は何でしょうか?」という質問には、2人から答えがありました。
黒川さんは「すべては途中」で、家族に教えてもらったのだそうです。
そして鉄腸さんはルーマニアの哲学者であるシオランの言葉で、鉄腸さんによる“オレ訳”です。
「孤独が教えてくれるのは、アンタが一人であるってことじゃない。アンタが唯一無二って存在なんだってことだ」
もう一つの言葉は「大盛無料」とのことでした。

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