国府台に国府が置かれたのは、「その当時、水浸しにならなかった」からというシンプルな理由ではないか(2020年11月30日初出、2025年7月28日再構成)
近世よりも前の市川市は、そのほとんどが水浸しだったと考えられます。
これを踏まえて、どうして国府台に国府が置かれたのかを検討します。
下総国分寺 |
国府とは、持統天皇(飛鳥時代の女帝)が制定させた令制(りょうせい)による地方行政府で、今でいうところの県庁所在地。日本各地に国府が置かれたのは、飛鳥時代から平安時代にかけてのことでした。
日本の人口は、奈良時代では約500万人。今だと1億2650万人ですから、50分の2ぐらいしか当時は人は住んでいなかったということになります。
また、古墳時代から平安時代にかけて、気温は大きく上下していることから、海水面も上昇したり低下したりしたと推測できます。当時、日本の中で、ある程度の人数が集まって定住生活を送れる場所は限られていたはずです。
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北川浩之1995 「屋久杉の年輪の炭素同位体比から明らかとなった歴史時代の気候」 |
データは縄文時代にまでさかのぼってしまうのですが、市川は堀之内、曽谷、姥山辺りまで海中。行徳も中山も本八幡も、すべて海の底だったようです。
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縄文時代の海岸線と貝塚 |
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市川市のほとんどが水浸し |
貝塚が残された場所は水害が少なく、貝などの食料も安定して採取できたので、古くから集落があったのでしょう。それは、集落があった場所は、近世までさほど変わらなかったと考えられます。
理由は、地形を変えるような工事はなかなかできなかったからです。ブルドーザーやパワーショベル、ダンプカーのない時代に、工事は人と馬で行っていました。そのため、大掛かりに地形を変えるような工事は困難だからです。
また、急斜面に住居を作ることも不可能だったと考えられ、平らな土地に集落が作られたはずです。
さらに、水道を引く技術もなかったわけで、飲み水を得るために湧き水が出ている場所というのも条件になるでしょう。
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湧水の分布 市川自然博物館だよりより |
そして、明治元年に描かれた浮世絵「利根川東岸一覧」を見ると、真間川の周囲は水浸しだったことがわかります。今の地形とは、大違いです。
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利根川東岸一覧 |
ここで、話を国府に戻しましょう。
下総国は、以下の図に示されていますが、当然、当時の海岸線はこの図とは違う上、人が住んでいる場所もまばら。
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葛飾区史より |
古くから集落ができていて
陸路と海路(水路)のどちらも使えて
水浸しにならず
飲み水が得られる
下総国の中でもそんな場所が、国府台だったと推測できます。国府台に国府が置かれた理由は、ここにあるのではないでしょうか。
国府が政治的中心都市であるのなら、すぐに水浸しになるような場所には作りません。「重要書類が流されちゃった!」「建物が壊れちゃった!!」という事態を避けるためです。
葛飾区史には、次のように書かれていました。
父が上総国司であった菅原孝標女は、『更級日記』の中に下総国府(現千葉県市川市)周辺の景観を書いている。これには、市川の真間にある長者という人の家は既に水中に没し、門柱が川の中から出ていたという
『更級日記』は、平安時代中期に書かれた回想録で、その頃は今よりも気温が2℃ほど高かったようです。家が水没するほど、水位が上昇したのはこのためでしょう。
しかし、江戸時代になると気温が下がり、海岸線は後退したはずです。そのために平地が増え、水害は減って干拓が進み、行き来が楽な平らな低地に多くの人が移り住んだのかもしれません。
私たちの祖先は、地形を利用したり、気候の変化に合わせたりして農業・漁業・商業を行い、町を作っていたのでしょう。
そう考えると、「国府に選ばれるなんて、特別!」というよりも、奈良時代から平安時代にかけては消去法でこの土地が選ばれたことになるわけです。
■参考資料
葛飾区史
http://www.city.katsushika.lg.jp/history/history/1-2-2-27-2.html
http://www.city.katsushika.lg.jp/history/history/2-1-3-66-1.html
ナショナルジオグラフィック日本版サイト 世界人口から考える、日本の未来
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110907/283253/?P=1
4~10世紀における気候変動と人間活動
レファレンス協同データベース 持統天皇の国府(こう)行幸の際、詠まれた歌がある。それは何か。また、歌碑はあるか。
https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000143807&page=ref_view
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