「行徳にはインドの人が多い」「理由は、東西線の西葛西駅周辺にインド人コミュニティがあるからだ」という噂話を年表で検証
テレビ東京系の番組「出没! アド街ック天国」のサイトでは、「超多国籍タウン・行徳の中でも特に多いのがインド料理のお店」と紹介されています。
また、ネット上には、「行徳にはインドの人が多い」「理由は、東西線の西葛西駅周辺にインド人コミュニティがあるからだ」という言説が流布しています。東京メトロ東西線の西葛西駅(東京都江戸川区)に住んでいたインドの人が、同じ路線で家賃の安い行徳駅(千葉県市川市)へと引っ越してきたという考えでしょうか。
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東京メトロ路線図より、一部改変 |
ここで注意が必要なのは「カレーといえばインド料理」「サリー(細長い一枚の布を体に巻きつけて着用する民族衣装)といえばインド」という思い込みです(自戒も込めて)。カレーもサリーも、南アジア諸国に共通する特徴だからです。
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サリー(写真/Ansh Yati) |
今回は、「行徳にはインドの人が多い」「理由は、東西線の西葛西駅周辺にインド人コミュニティがあるからだ」という言説について、検証しました。
東京メトロ東西線西葛西駅周辺には、インド人コミュニティがあります。その中心的存在といえるジャグモハン S.チャンドラニさんは、さまざまなインタビューを受けています。
東京都多文化共生ポータルサイト 江戸川インド人会より |
インタビューの内容をまとめると、西葛西のインド人コミュニティの始まりは、2000年問題(コンピュータシステムが2000年で誤作動などを起こすとされた問題)で来日したインドのIT技術者。技術者のためにレストランやスーパーなどができて、インドから家族が呼び寄せられ、コミュニティが形成されていったのです。
そんな西葛西がある東京都江戸川区は、東京23区で新宿区に次いで外国人人口が多い区です。国籍は、中国(1万7061人)、インド(7653人)、韓国(4063人)、ベトナム(3930人)、フィリピン(3357人)、ネパール(2530人)となっています。インドが第2位。
一方、行徳がある千葉県市川市は、中国(6989人)、ベトナム(2651人)、ネパール(2588人)がトップ3で、インド(779人)は第7位。インド国籍の人が少ないのです。
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在留外国人統計(旧登録外国人統計) / 在留外国人統計(調査年月2024年12月)より作成 |
そのため、「行徳にはインドの人が多い」というのは勘違いで、「インドかと思っていたら、実はネパールの人」かもしれません。
そしてカレー。ウィキペディアでは「複数の粉末香辛料を混合させて作ったソースを用いた料理全般」と説明されていて、南アジア諸国で作られて食べられています。つまりは、「カレー店はすなわちインド料理店」とはいえないということ。パキスタンやバングラデシュ、ネパールの「カレー」を出しているお店でも、日本人である私たちは「インド料理店」と認識してしまっている可能性も考えられます。
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世界の統計2025 世界地図より |
ちなみに、バターチキンカレーやナン、タンドリーチキンは「日本にある本場のカレー」とされるもので、インド料理でもネパール料理などでもないと『カレー移民の謎』(著/室橋裕和 集英社)で説明されていました。日本でのビジネスにおける「本場のカレー」に過ぎず、日本のすしに置き換えると海外でのカリフォルニアロール的な立ち位置のようです。
では、現地ではどのようなものが口にされているのかというと、次のとおりだそうです。
〇インド北部:「ターリー」という定食(肉か野菜のスパイス煮込み、ダルというマメの煮込み、野菜をスパイスで漬けたアチャール、ライスまたはロティやチャパティ)
〇ネパール:ダル、ライス、アチャール
また、内陸国のネパールについては、ヒマラヤ観光と農業ぐらいしか産業が育っていません。国内での雇用機会が少ないために、多くの人がインドへ出稼ぎに行くのだそうです。インド人が経営するインド料理店で、コックとして働いているのがネパール人というケースも多く、結果として、ネパール人コックが増えたということです。
こうして、ネパール人には、調理師という「技能」を持つ人が増えました。
2000年代初めは、在日ネパール人の3分の1程度が、在留資格「技能」による滞在とのこと。
家族滞在と技能の増加は連動していると思われる。つまり、技能ビザで日本にいるのはインド料理店などでコックとして働くネパール人で、彼らの配偶者が家族滞在ビザで来日しているわけだ。ネパール人従業員を多く雇用する飲食店オーナーによると、「コックとして数年勤めた後に独立して自分の店を構える人たちがこの7、8年で一気に増えた。彼らが同郷の人を呼び寄せているようだ。永住権申請を目指すネパール人も多い」という。
日本でベトナム・ネパール人が急増した事情
そして、1980年から1990年にかけて、日本には外国から多くの労働者がやってきました。その際に、ムスリム(イスラム教徒)の多いパキスタンやバングラデシュの人たちは行徳に住むようになった可能性があります。根拠の一つは、1997(平成9)年にモスク、行徳ヒラー・マスジド(ヒラー・モスク、マスジド・ヒラー・ギョートク)が行徳に設立されたことです。
イスラム教では、イスラム法に則した屠殺方法・調理器具・調理場で処理されていない肉はタブーとして避けられます。そのため、ムスリムが食べられる食料品の「ハラールフード」や料理を提供するお店がある地域は、日本の中では限られていたと考えられます。そしてその地域の一つが行徳だったために、新たに日本にやってきたムスリムも行徳に住むようになり、コミュニティが形成されたと推測できるのです。
また、ハラールフードの穀菜食については、ヒンドゥー教の食事のタブーにも触れることはありません。そのようなこともあって、イスラム教とヒンドゥー教の教徒の占める割合の高い南インド諸国では、料理が似ているのかもしれません。
改めて、「行徳にはインドの人が多い」「理由は、東西線の西葛西駅周辺にインド人コミュニティがあるからだ」という言説を検証しましょう。
〇「行徳にはインドの人が多い」→インドではなくネパールの人の可能性が高い
〇「理由は、東西線の西葛西駅周辺にインド人コミュニティがあるからだ」→関係はなさそう(西葛西駅周辺のインド人コミュニティ形成よりも前に、行徳にはムスリムのコミュニティがあったと考えられ、パキスタンやバングラデシュの「カレー」のお店が2000年より前に行徳にはあったのかもしれない)
行徳駅周辺と西葛西駅周辺のカレー&サリーに関係する年表
※日本の出来事は黒、行徳はオレンジ、西葛西は青の文字
1952(昭和27)年 インド・パキスタンと日本で外交関係樹立
1956(昭和31)年 ネパールと日本で外交関係樹立
1969(昭和44)年 営団地下鉄東西線行徳駅開業
1972(昭和47)年 バングラデシュと日本で外交関係樹立
1978(昭和53)年 チャンドラニさんがインド紅茶のビジネスを始めるために来日
1979(昭和54)年 営団地下鉄東西線西葛西駅開業
1979(昭和54)年 チャンドラニさんが西葛西に転居
※20年ほどは、西葛西在住のインド出身の人たちは4世帯ほど
1980(昭和55)年代 南アジアや東南アジアなどから労働者が来日(「ニューカマー」と呼ばれる)
※イラン、パキスタン、バングラデシュの3国からはビザ不要で日本に来ることができた
→行徳駅周辺に居住→コミュニティ→パキスタンやバングラデシュの「カレー」店ができる???
1983(昭和58)年 日本政府「留学生10万人計画」開始
1989(平成元)年 入管法改正(「平成改正」)
※「定住者」の在留資格が新設
※南米の日系人労働者の受け入れが可能になり、多くの日系人が来日
※イラン、パキスタン、バングラデシュの3国からは日本に来る際にビザが必要になった
1997(平成9)年 コンピュータの2000年問題で来日したインドのITの技術者が、都心への通勤に便利な西葛西駅周辺の借り上げマンションに住み始める
1997(平成9)年 行徳ヒラー・マスジド(ヒラー・モスク、マスジド・ヒラー・ギョートク)がイスラミック・サークル・オブ・ジャパンの主導で設立
※1997年に2階建ての居酒屋を購入して改装し、翌年にヒラー・マスジド(モスク)として開堂
1998 年に行徳にモスクを建てた(当時、行徳には多くのムスリムがいたが、ムサッラーなども無かった)
日本のモスク調査1-イスラーム礼拝施設の調査記録-
1998(平成10)年 チャンドラニさんが「江戸川インド人会」設立・インド料理店「スパイスマジック カルカッタ」オープン
2003(平成15)年 行徳ヒラー・マスジドの建物の老朽化のため、建て替えを開始
※翌年に現在の3階建ての建物が完成
2008(平成20)年 日本政府が「留学生30万人計画」開始
2014(平成26)年 入管法改正
■主な参考資料
江戸川インド人会
ナマステ江戸川区
在日バングラデシュ人コミュニティの変化と帰還移民に関する研究I
日本に暮らすムスリム第二世代
川口市15位、江戸川区27位、では1位は? 「人口に占める外国人の比率が大きい市区町村」ランキングTOP50×3
1位は東京都で、外国人比率は5.05%。トップ10のうち5つを関東の都県が占めた。中でも1位の新宿区(東京都:13.42%)には4万6869人もの外国人が居住する。うち最多の38.1%を占めるのが中国人。また国内最大のコリアンタウン・新大久保を有することから、うち約2割を韓国人が占めるのが特徴だ。東京23区で新宿区に次いで外国人人口が多いのが、27位の江戸川区(6.75%)の4万6574人。中国(1万7061人)、インド(7653人)、韓国(4063人)、ベトナム(3930人)、フィリピン(3357人)、ネパール(2530人)と国籍も多様だ。とくに小岩は多国籍なお店が軒を連ねる「エスニックタウン」として知られ、一部のファンに愛されている。また、同区はインド人人口が全国の自治体で最も多く、西葛西にはインド人コミュニティーが存在する。
「インドカレー屋」実はネパール人運営が多い理由
https://toyokeizai.net/articles/-/746204
https://toyokeizai.net/articles/-/746204
東京DEEP案内 行徳
※バングラデシュ
美味キッチン&スーパー行徳
行徳界隈にはバングラデシュ人居住者が多く、現在は40世帯程が在住。モスクも設置されているんだそうな。(お店マダム談)
※パキスタン
アミンパパ
行徳唯一のパキスタン『アミンパパ』。でもシェフはママです。
SHALIMAR SWEETS
以前、葛西から行徳に移転したパキスタン菓子のお店をご紹介しましたがまた移転したので行ってきました。
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