千葉県の市川市から千葉市にかけて存在すると推定されていた「東京湾北縁断層」を知っていましたか

  「東京湾北縁断層」は、1991(平成3)年に発行された『新編 日本の活断層』(編:活断層研究会 東京大学出版会)に掲載された、長さ22kmの活断層です。中山競馬場周辺(千葉県市川市と船橋市の境界)から千葉市にかけて存在すると推定されていました。
 しかし、千葉県などによる1998(平成10)年度の調査で、活断層ではないと判断されました。


 そもそも「活断層」とは何を指しているのでしょうか。
 この記事は、ここからスタートします。

クラナリ
※この記事の初出は『クラナリ』2026年8月24日 



岩盤がずれた衝撃が「地震」で、岩盤の割れ目のずれが「断層」

 私たちが踏みしめている地面を掘り下げていくと、岩盤(固い岩の層)にぶつかります。
 岩盤のたくさんの割れ目は、通常はしっかりとかみ合っていますが、力が加わると割れ目がずれます。
 地震は、ずれた衝撃が震動として地面に伝わったものです。
断層 出典:地震・津波・火山を知る|気象庁


 そして岩盤の割れ目のずれ(食い違い)が「断層」です。

岩盤に力を加える「プレート運動」

 地球は外側から地殻、マントル、核で構成されていて、そしてプレートは、地殻に近い硬いマントルと地殻を指しています。

プレート=地殻+地殻に近いマントル


 プレートはその下にある軟らかいマントルの動きに伴って、年間数cmの速さで移動していて、「プレート運動」と呼ばれています。このプレート運動が、岩盤に力を加えているのです。
 地震や火山活動などをプレート運動で説明しているのが、プレートテクトニクスという学説です。

地球は、外側から順に地殻、マントル、核で構成(出典:気象庁)


プレートテクトニクス(出典:東京大学)
プレート運動(出典:活断層とは何か?|国土地理院)


活断層は「大地の深いキズ」

 活断層とは、数十万年前以降に繰り返し活動し、将来も活動すると考えられる断層です。なお、260万年前以後の第四紀に活動した証拠のある断層を呼ぶこともあります。
 活断層データベースでは「大地の深いキズ」と説明されていました。
Q.活断層って何ですか?
A. 活断層とはいわば大地の深いキズです。
このキズは普段はずれ動くことはありませんが、あるとき突然ずれ動き、大地震を引き起こします。
このような大地のキズのうち、最近まで繰り返しずれ動き、今後もずれ動いて大地震を起こす可能性のあるものを「活断層」と呼んでいます。
活断層データベース よくある質問
https://gbank.gsj.jp/activefault/question.html


東京湾北縁断層が『新編 日本の活断層』に掲載された経緯

 どのような経緯で、東京湾北縁断層が『新編 日本の活断層』に掲載されたのでしょうか。

楡井博士による基盤岩の落差の指摘

 まず、1977(昭和52)年に、環境地質学者の楡井久(にれい ひさし)博士が、船橋市の地下で、基盤岩に落差があると発表しました。
 ただし、活断層についての言及はありません。
※基盤岩とは、大陸地殻(陸地の下にある地殻)の最も古い基礎部分で、硬い火成岩・変成岩で構成

○90万年前に堆積した上総層群梅ケ瀬層相当層(前期更新世)の等深線が、東京湾を囲む形で間隔が狭くなっている
※等深線とは、水面標高からの深さが10mごとの線(水深の等しい点を結んだ線)

出典:東京湾造盆地運動|千葉市

○等深度線が上記段丘崖に沿って密になっている
※段丘崖(だんきゅうがい)は、川や海に沿って存在する階段状の地形(段丘)で、平らな面(段丘面)と低い面を区切る急な崖

出典:大阪市立自然史博物館

○船橋市地下では、段丘崖に直交する形で基盤岩に約300mの落差が存在する


多田博士による活断層の存在の主張

 1982(昭和57)・1983(昭和58)年に地理学者の多田文男(ただ ふみお)博士は、船橋で基盤岩に南西落ちの段差構造が認められること、そして、この位置が地表の段丘崖の位置になっていることから、活断層の存在を主張しました。

 こうした研究発表を踏まえて、東京湾北縁断層の掲載に至ったようです。『新編 日本の活断層』で、東京湾北縁断層は、確実度II、活動度Bとされていました。
確実度I:断層の位置、ずれの向きがともに明確で、地形的特徴から活断層であることが確実なもの。
確実度Ⅱ:断層の位置、ずれの向きは推定できるが、地形やごく新しい時代の地層が繰り返しずれていることを示す確実な証拠に欠けるなど、確実度Iとするには十分な資料に欠けるもの。
確実度Ⅲ:活断層である可能性はあるが、ずれの向きが不明であったり、河川や海の浸食作用など他の原因で形成された疑いが残るもの。

活動度A:1,000年あたりの平均的なずれの量が1m以上10m未満の活断層。
活動度B:1,000年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上1m未満の活断層。
活動度C:1,000年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上0.1m未満の活断層。


 ただ、冒頭でも紹介したように、人工的に地面を揺らして地下の断面を見る反射法探査で、活断層ではないと判断されています。

反射法探査 出典:活断層データベース

 活断層データベースにも、東京湾北縁断層の説明がありました。

東京湾北縁断層 出典:活断層データベース

 東京湾北縁断層について調べたところ、国や関係機関が、防災に関する大量のデータを無償で提供していることがわかりました。
 地震を正しく恐れるのは、どこにどんな情報があるのか、そしてどうやって必要な情報にたどり着くのかをマスターすることが求められるのだと実感した次第です。


■主な参考資料
地震本部

活断層データベース

反射法地震探査の発展と構造地質学の新たな展望
新たに設置された地震研究推進本部による全国活断層調査の一環として反射法探査は,これまで充分知られていなかった活断層の地下構造についての知見を一気に広げた(科学技術庁,1997),また,「東京湾北縁断層」のようにその存在自体に疑問が投げかけられることも起った(千某県,ユ998>
反射法地震探査と地下構造解析の重要性と問題点
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/39/4/39_4_357/_pdf
わが国における都市の多くは第四紀以降沈降場に位置し,比較的平坦な沖積平野が広がる地域である.ここでは活構造は地下に潜在しており,地形・地質学的方法では把握することは難しい.反射法地震探査は,このような地域における活構造の位置・形態・活動性を解明する上で有効であった.なかでも擁曲・傾動などスケールとして大きな構造の活動歴は,ボーリングなど点の情報では捉え難く,反射法探査によって初めて解明された活構造も少なくない.
現実的な障害は,経済的な面にある.この技術は測定に使用するやや高価な機材の質と量に依存する部分が多いが,現在の地震防災関連の需要を考えると,探査レベルの向上どころかいずれ維持も難しくなるのではないかとの懸念がある.地震防災の観点から,今後も必要な技術と認められるのであれば,なんらかの対策が必要になると思われる. 

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