【コミュニティづくり再入門】 市川市学習交流施設 市本で「地域コミュニティづくり」を考える4 「本を介した地域交流」が困難なことが浮き彫りに
前置きしておくと、『クラナリ』の編集人は、父親が高校の世界史の教諭、母親が書店店主という家庭で育ちました。自宅には歴史書や資料集、全集など売れそうもない本が、母の勤め先には『週刊少年ジャンプ』など売れ筋の雑誌や新刊が大量にあるという、各種の本にまみれた子ども時代を送りました。
さらに、大学を卒業してから数十年にわたり、出版社で編集の仕事に携わってきました。現在はフリーランスです。
仕事でもプライベートでも、本を読みます。「市川市で本を大量に読む100人」なるものがあれば、選出される自信もあります。
そんな人間だからこそ、思うのです。
本を介した地域コミュニティづくりは、困難だっただろうと。
「市川市学習交流施設 市本(いちぼん)」について、NHKの記事には村越祐民前市長のコメント掲載がされていました。
公民館などの公共施設は、高齢の方のサークルなどでの利用が中心になりがちです。幅広い年代層の市民が、継続・反復して立ち寄れる施設を作りたいと、本を切り口に作ったのが『市本』でした。
「公民館などの公共施設は、高齢の方のサークルなどでの利用が中心」という前提があるため、「幅広い年代層」と書かれているものの、20~40代などを意識した施設だったと推測しています。
しかし、20~40代の本離れは深刻です。スマホ世代の彼らは、雑誌などほとんど買ってくれなくなりました。こうしたことも関係して返品率が高まり、2022年12月の月刊誌の返品率は36.4%。出した本の3分の1以上が出版社に戻されています。また、廃刊・休刊が進みました。
文芸書やマンガを除くと、雑誌も単行本も「高齢の方」がメインで買ってくれている状況です。
さらに、モバイル研究所が、スマホ所有率は60代で91%、70代だと70%という調査結果を報告しています。スマホ世代どころか、「幅広い年代層」が、情報を得る手段が本からスマホへと移行しているのです。
本を介した地域コミュニティづくりが困難である理由は、次の2つが考えられます。
理由1 出版不況だから
1990年代末から続く出版不況。本離れが30年も続いてきたともいえます。
本が売れない。
つまり、もはや本が身近な存在ではないということ。
本自体を読む人が減っているため、「本を介した」つながりを求める人はあまりにも少数派だと考えてしまうのです。
理由2 本を介して交流したいというニーズがさほどないから
出版不況とはいえ、本好きはいます。『クラナリ』の編集人もその一人といえますが、ブックカフェなどで読書したいとは思わないのです。自宅で好き勝手に本を読むほうが楽なので、わざわざ読書のために外出することはありません。
また、本を読んでいるときに、突然声を上げたり、ニヤニヤと笑ったり、泣きだしたりすることもあります。そんなリスクがあるので、他人がいる静かな場所で本は読みたくありません。
あくまでも読書は個人的体験。「本を介して交流したい」とは思わないし、ネットで情報交換する程度です。
もちろん本好きも多種多様で、ブックカフェなどでの交流を求める人はいるでしょう。しかし、市川市民、その中でも20~40代に何パーセントいるのかと考えると、非常に少ない割合だと推測できるのです。
きっと、市本の開設に携わった人たちも、気づいていたでしょう。実際にやってみたら、JR市川駅から徒歩1分という好立地にもかかわらず、利用者が少ないという結果が出て、「やっぱり」と思っているのではないのかと。
悲しい話ではありますが、地域コミュニティを形成する手段として、本は適していないのです。
図らずも「市本が1年4カ月で閉鎖」というニュースで、このことが浮き彫りになったように思えます。
Leave a Comment