「東京10号線延伸新線」の名残を市川市内で探せるのだろうか〈番外編〉 都営の地下鉄なのに千葉県市川市本八幡に駅がある理由

 新宿線は、東京都の新宿と、千葉県市川市の本八幡を結んでいます。県境をまたいだ理由は、千葉ニュータウンにあります。『今だから話せる都営地下鉄の秘密』(著/篠原 力、洋泉社)では、都心とニュータウンをつなごうとした路線の跡が「ニュータウンの残り火」と表現されていました。




 1972(昭和47)年に、都市交通審議会答申第15号で、千葉ニュータウンなど各ニュータウンに路線を伸ばす計画が出されました。
 新宿から本八幡までが東京都交通局、本八幡から千葉ニュータウンまでは千葉県営鉄道が建設を行うことになっていたのです。ちなみに新宿から多摩ニュータウンまでは京王電鉄の担当。

 しかしオイルショックの影響などで、ニュータウン開発の規模が縮小。そして千葉県が鉄道建設に難色を示しました。

都交通局から派遣員が千葉県に行って、調整に携わっていましたが、最終的に千葉県が建設を断念します。
『今だから話せる都営地下鉄の秘密』

 江戸川区の篠崎まで新宿線を建設することになっていた東京都交通局にしてみれば、はしごを外されたようなものだったでしょう。
 ただ、篠崎駅で新宿線を終わらせるわけにもいかなかったようです。

新宿線としては、手前の篠崎駅まででは袋小路で、この路線自体が中途半端なものになってしまいます。国鉄および形成と連絡できる本八幡までつなげないと利用価値がありません。ぜひとも本八幡に駅を建設したいと、千葉県および市川市との協議に入りました。
『今だから話せる都営地下鉄の秘密』

 篠崎駅が1986(昭和61)年に、本八幡駅は1989(平成1)年に開業し、3年ほどのブランクがありますが、行政手続きが遅れたためなのだそうです。

 市川市大和田には、新宿線のポンプ所と換気所があります。ここには、防水扉が設置される予定があったとのこと。

都の運営する地下鉄が千葉県内に入っていくとなると、もし江戸川の下を通るトンネルから水が入ったら、トンネル内を通って江戸川の水が千葉県側に被害を及ぼす可能性がある。そこで防水扉を設けろというわけです。
『今だから話せる都営地下鉄の秘密』

 ちょっと理屈がわからないのですが、「東京都の水を千葉県に入れるな」という話なのでしょうか。結果としては、防水扉は設置されなかったそうです。
トンネル内防水ゲート(東京メトロ、風水害対策より)



 江戸川の下を新宿線のトンネルが通っていますが、トンネル建設にも工夫が必要のようです。

複線式のようにトンネルの断面積が大きくなれば、その分、深く掘らなければなりません。単線トンネルは断面積が小さいので、駅を掘削する深さを浅くでき、建設費を抑えられるのです。江戸川区は広い道路がほとんどありませんから、トンネルは民地の下を通ることになります。そのための区分地上権設定を行わなければなりません。しかし、その費用を加えても、トンネルと駅の建設費を低く抑えられるため、トータルでは工事費が抑えられるのです。
 江戸川を渡りきった大和田換気所までは単線並行でいきましたが、本八幡駅を設ける行徳街道は幅員がせまく、古い街道ということもあって付近に住宅が密集し、民地にからむ建設費が高くついてしまいます。そこで、この区間は極力街道の下に通すため、複線シールドトンネルにしました。掘削の費用は高くなりますが、区分地上権にかかる費用を考えると、単線二本分より複線一本のほうが幅が狭いので、合計した工事費は低く抑えられるのです。
『今だから話せる都営地下鉄の秘密』


 地上権とは、他人の土地を使う権利の一種。区分地上権は、地上や地下の空間の一定の範囲を目的として設定される地上権を指しています。
 誰かの土地の下にトンネルを通す場合は、区分地上権を買うために土地の所有者に権利金を支払います。

 権利金の金額は半端な額でないため、路線は地上権の設定が不要な国公有の道路などの公共用地の下を極力選んで通す必要にせまられます。

 また、1985(昭和60)年に開館した、市川市大和田にある市川市文化会館も、新宿線建設に影響を及ぼしたとのこと。地下鉄の振動がホールに伝わって音響に影響を与えないように、市川市と東京都交通局が相互で調整をしたようです。

 『今だから話せる都営地下鉄の秘密』から、地下鉄は「公共用地の下を極力選んで通す」ことがわかりました。この情報が「東京10号線延伸新線」の名残探しに役立つのです。
 

■参考資料 
交通政策審議会 陸上交通分科会 鉄道部会東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会 中間整理 (参考資料) 国土交通省

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