未来のランドスケープをデザインする その1 消費傾向・価値観の変化にまちづくりは対応できているのだろうか

 昭和、平成、令和と時代とともに、消費傾向・価値観は変化しています。それに対し、町を含めた住環境は昭和の感覚を引きずっている印象です。昭和レトロの建物に対して「新鮮なのに懐かしい」と盛り上がる一方で、狭い・暗い・使いにくいと空き家やシャッターが下りたままの店が増えているのが現状ではないでしょうか。

「昭和レトロ」の国府台県営住宅(現在は取り壊された)





 消費傾向は、昭和、平成、令和と時代とともに変化しました。「港区女子」などのごく一部を除ければ、ブランド志向が低く、所有欲が希薄で、タイムパフォーマンスを重視するのが、Z世代といわれています。この世代では、メインカルチャーとサブカルとの境界も曖昧になってきています。

 そんなZ世代は「エモ消費」が特徴とされていて、共感やうれしさといった感情(エモーショナル)を重視しています。

 昭和世代については「モノ消費」で、商品の所有を求めます。そして、商品そのものの機能性やブランド価値などを重視するのです。

 モノ消費の象徴といえば、百貨店。百貨店の衰退も、さまざまなメディアで報じられてきました。電子商取引(EC)の増加も背景にあるのでしょうが、「一流品・ブランド品を所有したい」という欲求が減退していることも関係していると考えられます。
2021年の全国の百貨店売上高は4兆4000億円で、ピークだった1991年の9兆7000億円から半分以下の水準に落ち込んだ。店舗数も268店から、189店に減った。

 加えて、「結婚して一人前」「家を持って一人前」といわれていた昭和世代ですが、少子高齢化が進んだ令和の今、壮年になってからも親と同居する割合が増えてきています。
親と同居する40・50代のシングルの実態と課題より


 昭和中期は高度経済成長期に当たり、「ウサギ小屋」と揶揄された集合住宅がたくさん作られました。住宅地については、野放図に開発され、道が曲がりくねって車が通れない箇所も散見します。そして、庭がないどころか、隣の家との間を通り抜けるのも難しいほど敷地が狭く、日当たりが悪い家は少なくありません。
 昭和であれば「小さかろうが、暗かろうが、職場から遠かろうが、一戸建ての主になれればそれでよい」という価値観だったのでしょう。そうした家が、転居や死亡などのライフイベントで放置され、持て余され、空き家になっています。

門扉の内側に、壊れた車型遊具が縦置き(樹木の奥に家屋)



 昭和中期はオイルショックの影響もあって、建材などが安っぽい傾向があり、中古住宅としてもニーズの低い家が多数できてしまいました。


 「ウサギ小屋」については、自分の話で恐縮ですが、東京で一人暮らしを始めたときは、六畳一間の1Kで、トイレ・洗面台・ふろが1つになった3点ユニットバスでした。当時はこれが一般的でしたが、現在ではこうした間取りは不人気で、新しい物件ではバス・トイレ別のほうが多いとのことです。

 地方の地方の貧しい少年が、首都圏に出てきて極貧生活を送った末、ロックのカリスマに成り上がる……これも昭和の物語かもしれません。
『成りあがり』


 人口が増え、住宅地も拡張し続けてきた昭和。「そんな昭和に形作られた現在の町をこれからも維持できるのか」ではなく、「維持する必要があるのか」を検討するタイミングが来ているのかもしれません。
 

昭和 

○モノ消費
○ブランド志向が明確
○所有欲が強い
○「家を持って一人前」という価値観
○「夫は働いて妻は専業主婦」という家庭内役割分担が明確
○メインカルチャーとサブカルチャーの境界がわかりやすい
○就職などで地方から東京に流入した大量の若者が、結婚その他でマイホームを求め郊外(神奈川県、埼玉県、千葉県など)に移動した

令和 

○エモ消費
○ブランド志向が曖昧(センスがいいと思われたい、みんなと一緒だとちょっと恥ずかしい)
○所有欲が希薄
○大人になってからの親との同居に抵抗感は低い
○性別による役割分担が曖昧(夫婦共同で仕事も家事も子育てを行う)
○メインカルチャーとサブカルチャーの境界が曖昧
○そもそも若者が少ない
○ネットの発達で東京と地方の差が縮まった


■参考資料
親と同居する中年未婚者の増加と生活上のリスクへの対策(1/2)

賃貸一人暮らし調査[2] バス・トイレは一緒でもいい? 別がいい?

Z世代は「エモ」でモノを買う。これからのマーケティングで重視すべき「エモ消費」とは

現代消費潮流概論-消費文化論からみるモノ・記号・コト・トキ・ヒト消費-
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